技術情報
産業用インクジェットの話
捺印機から産業用インクジェットプリンターへ
弊社は昭和43年の創立以来、捺印機(ローラーコーダー)のトップメーカーとして、ユーザーの皆様から絶大な支持をいただいてまいりました。
近年、工場の処理能力の向上、多品種・少量生産の拡大、バーコードなどの表現方法の多様化、PL法や食品衛生法への対応など、捺印機の能力を超える要請も現実のものとなってきました。
このような要請に応えるため、1986年以来、インクジェットプリンターの開発に取り組んでまいりました。おかげさまで、特に外装箱などに印字する高品位タイプでは、圧倒的なご支持をいただいております。
ここでは、この産業用インクジェットプリンターの仕組みについて説明いたします。
産業用インクジェットプリンターは以下のように分類されます。
産業用インクジェットプリンターの分類 | 特 徴 | |
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オンデマンド式(大文字用) | ピエゾ式 | 32~600ドットの高品位文字を印字可能。 |
バルブ式 | ドット数が少なく、文字の品位は劣るが安価。 | |
サーマル方式 | 安価で高精細な印字が可能。定期整備不要。 | |
連続式(小文字用) | 帯電駆動式 | 32ドットまでの文字を速乾性インクで印字。 印字対象を選ばない。 |
オンデマンド・ピエゾ素子駆動方式
ピエゾ素子は、電圧がかかると伸縮する圧電素子です。この素子にかかる電圧を制御することで、インクを噴出させます。
● ノズル部分にはインクが常に滞留し、インクタンクと重力でつりあった状態になっています。このとき、インクの表面張力によって、インクはノズルから漏れることはありません。
● ピエゾ素子に電圧がかかると素子が縮み、インクがノズル後方に吸い込まれてきます。次に素子が復元するとき、インクはその圧力で押され、水鉄砲のようにノズルから噴出します。
● ピエゾ素子は機械的に動くのではなく、電圧により微小な動きで伸縮します。噴出するホール径も50μm程度とごく小さいので、噴出するインク滴も小さくなり、印字された時点で、ドットの大きさは1mm以下になります。
● このため、インク使用量が少なく、にじみのない美しい印字ができるのが特長です。
● ヘッドには制御チャンネル数のノズルが直列に並んでいます。1ノズルあたり、1~7つの ホールをもちます。弊社では、32チャンネル~500チャンネルの各種ヘッドを用意しています。
● ピエゾ素子の制御は10KHz程度の高速で行いますので、高速ラインでも余裕を持って印字できます。また、機械的な磨耗が少ないので、ヘッドの寿命も長くなります。
● さらに弊社新型ヘッドでは、次のような点を改善した、より進化した機構を採用しています。
- チェックバルブをヘッド内に組込み、従来ヘッドに比べ、耐衝撃性・耐振動性が大幅に向上、コンベアラインへの設置も今まで以上に万全。
- インク流路にデュアルインクフィードシステムを採用し、インクの流量を確保。これにより、高速ラインでの印字は、より安定したものになります。
- ヘッドの寿命を延ばすため、ピエゾピストンヘッドとインクの間に薄膜を入れ、シール部材とインクが直接触れないようにしました。
- 従来式ヘッドに比べ、 ヘッドのコンパクト化を実現。
弊社製品リスト |
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KGK JET HQM-S、HQ5100、HQ1600、HQ1500、HQ2100、HQ8500シリーズ【32chヘッド】、HQ8500シリーズ【128chヘッド】 HQ8500シリーズ【256chヘッド】、HQ8500シリーズ【384chヘッド】、HQ8500シリーズ【510chヘッド】 |
オンデマンド・バルブ式
バルブ式のインクジェットプリンターでは、電磁バルブの開閉によって、インクの噴出を制御します。
● インクは加圧され、ノズル後方に送られてきますが、通常はバルブが閉じているため、ノズルからインクは出てきません。印字信号が来ると電磁バルブが開き、ノズルからインクが噴出します。
● バルブの応答性はピエゾ式より劣りますので、あまり高速の印字には向きません。また、ノズル径も比較的大きく、大きなインク滴をゆっくり噴出します。
● このためドット数の少ない文字の印刷に向きますが、印字品位は良くありません。インクに圧力がかかっているため、ピエゾ式よりインクを噴出する力が大きいので、印字対象とある程度距離があっても印字できる特長があります。
● ドット数だけのノズルが直列に並びます。ピエゾ式に比べ高価な部品が少ないので、低価格で販売できるという長所があり、低価格・低ドット数のインクジェットプリンターでは主流を占めています。
オンデマンド・サーマル方式
ヘッド構造が比較的単純です。
物理的機構が少なく印刷速度の高速化や印字画素の高密度化が図りやすくなります。
熱をインクに加えることになるため、熱劣化の少ないインクを用いる必要があります。
ノズル自体のコストが低いため、インク交換=ノズル交換となり、メンテナンス作業はほとんどありません。
弊社製品リスト |
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HQ1000 、 HQ1000F 、 HQ lite 、HQ8500シリーズ【600chヘッド】 、HQ8500シリーズ【1200chヘッド】 |
連続式・帯電駆動方式
プラスチックや金属などに印字するためには、速乾性インクが必要ですが、オンデマンド型では、ノズルでインクが固化してしまいます。そこで、印字しないときも含め、運転中は常時インクを噴出するようにしているのが「連続式」です。
● ポンプで加圧供給されるインクに、噴出時にピエゾ素子によって一定の振動を与えます。ノズルから噴出したインクは、このため、微細なインク滴になって飛んでいきます。
● 印字しないときはそのままインク回収口に飛び込み、インクは回収されます。印字信号にしたがってインク滴を帯電させると、偏向電極間を通過中に電界に影響され、軌道がずれて印字対象に向かって飛ぶようになります。
● この帯電電圧を調整し、軌道を制御することで、1ノズルで32ドット程度の文字を印字します。
● 軌道の角度によってドットを構成するため、対象物とノズルとの距離により文字の大きさは変わります。インクの飛距離があるため、比較的離れた位置でも印字できます。
● インク滴は文字の大きさに比べて充分小さいので、印字された文字は典型的なドット文字になります。平面ではないものにも印字可能なことも特長です。食品などの個別包装への印字に、特に適性のある方式です。
● 機構が複雑なこと、大きな文字は印字できないこと、などの理由で、外装箱などには使用されず、小文字専用ということになります。
▼弊社連続式の特長について
● このタイプの産業用インクジェットプリンターは、速乾性インクを使用しているため、運転終了後、ノズルでインクが固まらないようにする必要があります。
● ノズルを自動洗浄してインクを洗い流す、という方法もありますが、溶剤を使用するため、インクの比重が不安定になりがちという欠点があります。弊社では、インクの固化を防ぐ方法として、「自動ノズルキャッピング機構」を採用しています。
● この機構は、運転終了時、ガターと呼ばれるインク回収口が自動的にノズルに密着する場所まで移動し、ノズルをぴったりと密閉します。インクの固化は溶媒の蒸発によっておこりますが、この溶媒の蒸発をこうして防ぐので、終了時のノズル洗浄の必要はありません。
● 運転開始時には、インクの噴出開始とともに、ガターが自動的に定位置に戻ります。終了時・開始時にほとんどタイムラグのない、優れた方法です。
● 長期の運転休止中には、インクの固化を防ぐため、一定間隔でインクを回転させる、「インターバル機構」も装備しています。長期休暇の後も安心して運転を再開できます。インターバル時間はタイマーで任意に設定できます。